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■ 『マスター・アンド・コマンダー』



『マスター・アンド・コマンダー』
★★☆☆☆
監督・脚本:ピーター・ウィアー
原作:パトリック・オブライアン
出演:ラッセル・クロウ、ポール・ベタニー、マックス・パーキス、ジェームズ・ダーシー、マックス・ベニッツ
2003年アメリカ映画/139分



 書いてて気づいたけどマスターアンドコマンダーじゃなくて「・」を入れるんですね〜。
 「幼い士官候補生の悲劇」みたいな宣伝文句を見てたので、指揮官と少年兵の話かと思ってたら、指揮官と船医の友情の話でした。こういう嘘はいけない。「ターミナル」もアメリカでは喜劇として宣伝してダメダメだったけど、日本では悲劇として宣伝して大入りだったから、そういう手法はありなんだろうけど、今回の「マスター・・・」に関しては「ターミナル」レベルの転換じゃなくて、完全に嘘でしょ〜。いくら日本人がお涙ちょうだいものが大好きだとはいえ、ここまでやっちゃダメですよ。

 さて、映画の中味はというと、まずまずでした。原作は史実の海戦小説らしく、映画も当時の海戦を忠実に再現してて歴史マニアにはこれまたたまらない作品にしあがってます。簡単に言うと、ナポレオン戦争時代のイギリス船とフランス船の一騎打ちの話。パイレーツオブカリビアンみたいな帆船好きにはたまらないはず。海賊船もでるし、原住民もでるし、嵐に巻き込まれたり、船がボロボロになったりする。ガラパゴス諸島の博物学的発見という当時の時代の雰囲気を感じさせることもある。荒々しい船員たちとそのやっかみを受けるエリート船員の話もある。船員の寒いジョークももちろんある! もう、これさえ見れば帆船マニアはお腹いっぱいでしょう!  見所はやはり血湧き肉踊る海戦です。 ゆっくりと近づく2つの船・・・。ついに擦れ合う程に近づいて、至近距離から砲撃ボカスカ! 飛び散る腕!足!はらわたッ! 弾が尽きれば、フォークやナイフを大砲に詰め込んで、ぶっ放す! そして甲板では白兵戦! 1対1のどつき合いが繰り広げられるわけです。勝っても負けても船ボロボロです。これで海戦マニアもお腹いっぱいでしょう。

 ところで、映画の中で気になったことが一つあります。映画の中でイギリス船の船長がフランス船を海賊船よばわりする場面があるのですが、一般的には英国艦隊こそ海賊船の元祖じゃん!昔、スペイン艦隊を私略船(海賊船を雇って敵船の財宝を襲わせた)の集まりで破って英国の覇権が始まったんですし。


 特に書くこともないので、当時の時代背景を少々解説します。(ぇ
 当時は陸戦最強のナポレオン軍が欧州を統一しそうになっていて、それをイギリスが阻止しようとしオーストリアやロシアと対仏大同盟を何度も組んでフランスを攻撃させていました。ナポレオンは黒幕のイギリスを倒すためにイギリス本土上陸を目指し提督ビルヌーブにフランス・スペイン連合艦隊を組織させ、上陸部隊を運ばせるためスペインから英仏海峡まで来させようとしていました。しかし、ビルヌーブにしてみれば英仏海峡にたどり着く前に海戦最強のイギリス艦隊に捕捉されてしまう恐れが高かったので、港を封鎖してるイギリス艦隊をどうやって巻くかばかり考えて時を浪費していました。ときどき連合艦隊を南米へ向かわせるふりをしてイギリスを牽制してみたりしてはいたのですが、うまくいきませんでした。ビルヌーブがなぜここまでイギリス艦隊を恐れるかというと、船員の能力が劣っていたからです。連合艦隊が砲弾を1発撃つ間に、イギリス艦隊は2〜3発も撃てたのです。この能力差が致命的であることをビルヌーブは知っていたのでした。戦艦自体の強度は連合艦隊のものも優れていたし、戦艦数でも優勢でしたが、能力差を埋めるほどにはなりません。ビルヌーブは劣勢を補うため狙撃兵を増やしてもいたのですが、勝てる見込みは薄いと考えていました。
 しかし、ナポレオンの度々の催促に抗しきれず、ビルヌーブは決死の覚悟で港を出て英仏海峡へ向かいました。(実は、度々の出航の催促に応じないビルヌーブをナポレオンは臆病者と見なし、人事降格の通達を出していました。この通達が着く前にビルヌーブは出航したといわれていますが、実は知っていてこれを無視して出港したという説もあります。真実はどうであれ、追いつめられたビルヌーブは敗北を覚悟して出航したことは確かです。)
 沖で待ち構えていた英提督ネルソンは直ちにこれを捕捉、戦列を縦に組み連合艦隊の戦列の横っ腹に突入しました。俗に言う「ネルソンタッチ」です。連合艦隊は突入してくるイギリス艦隊に向け大砲を撃ちまくりますが、あっという間に接近され、戦列を前後に分断されてしまいます。あとはイギリス艦隊の速い砲撃のまえに各個撃破されてしまいました。しかし、ネルソンは連合艦隊の狙撃手によって射殺されます。  ビルヌーブの連合艦隊全滅によってイギリス上陸が夢となってしまったナポレオンは英仏海峡に集合させていた陸軍を敵対を表明したオーストリアに向け、あっという間に征服してしまいます。引き続きロシア・オーストリア連合軍と会戦しこれもまた破ります。(三人の皇帝が戦ったこの戦いを俗に三帝会戦という。) まさに陸戦だけは最強でした。 
 こういう時代の話なんですねー。

 この船もその対ナポレオン戦略の中の一隻なんだー、と思って見ると面白いかもしれません。